「そんなに硬くなるな。」





「だ…だって…」





助手席で青ざめた様に固まるを見ながら、運転手のイザークは柔らかく微笑む。




普段、決して他人には見せない笑顔もの前では簡単に曝け出す事が出来る。




会えない時間が、互いの心を素直にさせ…想いは深まってゆく。




共に歩むと決めた2人に迷いは無かった。




例え今は…遠く離れていても。





























 7days Love

    想いを繋ぐ言葉 






























「着いたぞ。」



門をくぐった車は大きなエントランスへと入り、正面玄関の前で停車した。



入り口には数人の使用人。




「お帰りなさいませ。イザーク様。」




「あぁ。」



イザークは先に車から降りると、素早く助手席へと回る。




ガチャ…




扉を開き、差し出された手。






「あ…ありがとう…」





「いらっしゃいませ、様。」




「あ…っ…お世話になります!」












想像以上に凄い豪邸…


議員とか…プラントの階級に関しては詳しくないけれど、明らかに上流階級。


イザークの乗っていた車といい、このお屋敷といい…


プラントに着いてから圧倒されてばかり。








「いらっしゃい。待っていましたよ。」



優しい女性の声が聞こえて…


ふと…顔を上げると、目の前にはイザークと同じ、銀糸…。



すぐに…イザークの母親なのだと分かった。





「あ…初めまして!と申します。この度はお招き、ありがとうございます。」



「そう硬くならなくとも良い。エザリア・ジュールだ。イザークの母です。」



イザークから開放された手は、次にエザリア様の手を握る。




「疲れたでしょう?まずはお茶でも…。」



「あ…はい。」






















イザークがプラントに帰って、初めての休暇が取れた。


どちらが会いに行くか…と相談しようとしていたら、イザークからの招待を受けて…。



しかも今回は…イザークの実家に…と。



迷ったけれど、折角の招待だから…お言葉に甘える事にした。




想像以上に綺麗なイザークのお母様…。


イザークの容姿も母親譲り…。





何だか余計に緊張してしまう。










「先の戦争では…イザークが色々とお世話になったようですね。」




「いえ…そんな…」



「イザークから話は聞いています。感謝している…と。」




「母上!」




チラリと視線を送ると、照れた様に怒るイザークの横顔。





「イザーク、さんと少し話がしたいわ。外して頂戴。」



「え…しかし…」



「大丈夫よ。何も苛めたりはしないから。」




「母上!」




うろたえるイザークに思わず笑みが零れた。


こんな風に焦るイザークも初めて見るから。





「じゃあ…荷物を部屋に運んでおく。」



「あ…ありがとう…。」































「本当に…イザークは全てを包み隠さず話してくれました。」



「あ…」




脳裏に浮かぶのは…2人が今の様な関係を築く前に生じた壁…



失った大切なもの…



奪ってしまった大切なもの…






「決して…許されない罪を犯してしまったと…それなのに自分を受け入れてくれたと…」



「そんな…私こそ…」



「私も…あなたには本当に感謝しているのよ。」




大切なものを奪われて尚…深まっていった愛情。



憎まれても…恨まれても仕方の無い行為だった。



なのに、今こうして手を取り合って未来へと歩み始めて…






「イザークは変わったわ。きっとあなたのお陰ね。」



「私も…彼のお陰で変わる事が出来ました。」




「いずれ…さんを妻に迎えたいと…そう言っていたけれど、あなたはそれでも?」



辛くはない?


苦しみはない?




「はい。私にも…彼しか居ません。考えられません。」




「そう…。」



「お許し…いただけるでしょうか?」




「あなた達の決めた道です。私が口を出す事では無いわ。

 それに…あなたの様な娘を持てる事、私は誇りに思います。」




イザークを宜しくね。



包み込むような優しさが…胸に染みて涙が溢れた。

































「この部屋を使ってくれ。」



「ありがとう。」




通された部屋はホテル以上の豪華さを兼ねていた。


白を基調とした清潔感溢れる部屋…。





「どうした?気に入らないか?」



「あ、ううん。その反対。凄く素敵な部屋だな…って。」



「いずれ…の部屋になる。」



「え…?」





「隣は俺の寝室だ。その扉一つで繋がっている。」



指されたのは…廊下と繋がっていたものとは別の扉。



「まぁ、俺は同じ部屋を使いたいとは思っているがな。それは追々考えるとしよう。」



「あ…あの…」



「安心しろ。一応、鍵は掛かるようになっている。」



「そうじゃなくて…」




ここが…私の部屋になる…?

隣に…イザークの部屋…が?



それってつまり…








「共に暮らせる様になるのがいつになるかは分からんが…いつ来ても泊まれる様に…な。」



両腕を腰に回され…抱き締められる形となる。


久し振りに触れる…イザークの体温が心地よく感じて眩暈がしそうだった…。



「ここがお前の…もう一つの家だ。」



「あり…がとう…。」




片方の手が後頭部へと伸ばされ…


唇を寄せ合う。





こうして互いの体温を確かめ合う事が出来るのが何よりの幸せ…。



触れ合うのも3ヶ月振り…。



通信越しに目を見て話していても、感じる事の出来ない体温…。


触れる事の無い肌の温もり…。



それが今、すぐ傍にある…。




















「仕事はどうだ?順調か?」



「うん…だいぶ落ち着いて来たわ。オーブの復興も時間の問題かな。」




ジュール邸の庭には色々な花が咲き乱れていて…


その景色を楽しむ為に散歩道も造られている。





その道を、手を引かれながらゆっくりと散策する。



ここへ来たら…どうしてもイザークに伝えたい事があったのだけれど…



なかなかタイミングが掴めなくて…。




もしかしたら、さっき部屋で2人きりになった時が絶好のチャンスだったのかもしれない。



なのに、イザークのキスに応じる事に精一杯で…。







「どうした?元気が無いな…。」



「え…?ううん、そんな事無いよ…。」



「もしかして、仕事で失敗でもしたか?」



「そんな事してないわよ〜。」




「そう言えば…最近はあまり仕事の話をしてくれないな。今も造船課に居るのか?」



「あ…うん。一応…。」



「一応?」



曖昧な返事…


イザークはその言葉に首を傾げる。






「実は…ね。今受け持ってる仕事が、もうすぐで片付きそうなの。」



「そうか…。」



「それで…その…」



「どうした?」



「これを機に…仕事、辞めようかな…って…思っ…て」



次第に小さくなっていく声…



自分から切り出すのって…恥ずかしい…。




でも…最初に2人の将来の事を切り出してくれたのはイザークだった…。



だから、今度は自分からきちんと話さなくては…



次に会う時にはきっと…



ずっと、そう思って心の準備をして来たけれど、いざとなるとやっぱり緊張する。






…それは、プラントへ来てくれる…という事か?」





は黙って…首を縦に振る。





プロポーズをしたのが3ヶ月前だった…。


の気持ちも尊重したいと思い、返事は急がなかった。


が自分と一緒になってくれるのであれば、1年でも2年でも待つつもりだった。


待つ事が苦にならないと感じたのは初めてかもしれない…。



通信越しにの笑顔を見る度に、彼女の為に頑張ろうという気持ちになれた。




そんなが…


こんなに早く、答えを出してくれるとは思ってもいなかった。







「仕事はいいのか?後悔は無いのか?」



「確かに、今の仕事はとても好きよ。でもね…それ以上に、イザークの傍に居たいの…。」



イザークは言ってくれた。



『ちゃんと養えるようになったら…妻になって欲しい…』と。



「私も…イザークの支えになりたい。ずっと傍で…。」




やっぱり…まだ早過ぎた…かな?





自分が口にした事が急に不安になって…は小さく問い返した。




その返事の代わりに、イザークがを抱き寄せる。







「…本当に…傍に居てくれるのか?」



「…うん…。」



「俺の…妻になってくれるんだな?」



「…うん…。」




埋めた胸からは、いつもより早く波打つイザークの鼓動が聞こえた。





「仕事の引継ぎが済んだら…イザークの元へ来てもいいですか?」



「当然だ。その為に俺は実家に戻ったんだ。」






仕事の為、別に用意していたマンションは既に解約した。


少し遠いが、今は実家から通っている。



いつ、がプラントへ来ても良い様に…






…愛してる…必ず俺が幸せにしてやるから…。」



「私も…イザークを愛してる…。」





失った命を取り戻す事は出来ない…


奪った命を返す事は出来ない…



けれど、それでも生きているのは新しい命を紡ぐ為。



新しい家族を築く為…




生きたいと…そう思わせてくれたのはイザーク。



守りたいと…そう思わせてくれたのは





2人が出会ったあの時…回り出した運命の歯車。



2人で無ければ回らない歯車…。





今ならきっと言える…




『出会えて良かった』…と





















【あとがき】

ずっと書きたいな…と思っていた番外編。

けれど、タイミングを逃すとなかなか書く事が出来なくて…

今回、リクという形で復活させて頂きました。

とにかく細かい指定が無かった為、個人的に書きたかった事を。

ヒロインとエザリア様の初対面です。

それと、本編で保留にしていたイザークへの返事。

一応、甘い…を目標にしたつもりではあります。


310_3103様、リクエストありがとうございました。

ご期待に沿える事が出来たか、非常に微妙ですが…

またいらして頂けましたら幸いです。



2005.08.02 梨惟菜









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