失って気付く、大切な物の愛おしさ・・・
でも、二度と戻る事の無い幸福な日々をただ悔やむばかり・・・
あなたを心から愛して・・・
あなたに心から愛されて・・・
そして、その手を離してしまったから・・・
もうあの頃には戻れないのだろうか・・・
7Days Love
<<7>>
サァァー
雨音とは異なる水音でイザークは目を覚ました。
1人にしては大き過ぎるサイズのベッドに眠るのは自分だけ…。
シーツの上に落ちた長い1本の赤毛…。
それに目を細めたイザークは水音の聴こえるバスルームに目を向けた。
穏やかな朝…。
こんなにゆっくりと眠れたのは久し振りだった…。
ガチャ…
それから数分して、水音の止んだバスルームの扉が開いた。
真っ白なバスローブに包まれたは恥ずかしそうに顔を覗かせる。
ベッドの中ではバスルームへ入る前と変わらぬまま、愛しい恋人が穏やかな寝息を立てて眠っている。
その姿に目を細めたは、濡れた赤毛の髪をタオルで拭き始めた。
「ひゃっ!!」
気持ち良く髪の毛を拭いていた所を、突然背後から抱き締められる…。
「イザーク!起きてたの!?」
「あぁ。さっき目が覚めた。」
優しく抱き締めてくるイザークの右手はの頬をゆっくりと撫でる。
「イザーク…濡れちゃうよ…。」
まだ乾き切っていない髪の毛…。
湯気で火照りの残る身体。
バスローブ姿で抱き締められているのが妙に恥ずかしくて…。
はイザークの腕から抜け出そうと試みる。
「別に気にする事じゃない…。」
の抵抗も気に掛けず、イザークはをより一層、強く抱き締める。
頬を撫でていた手がの髪の毛に絡まる。
濡れたままの髪の毛は指の通りが悪く、イザークの指先に絡み付いた。
洗いたての毛先からは甘い香りが漂う。
「もう…早く支度して朝食に行こうよ…ね?」
「…仕方ないな…。」
ようやく諦めたイザークはゆっくりとの身体を解放する。
「シャワー浴びてくるから…それまでに着替えておけよ?」
「…分かってる。」
イザークはの額にキスを落とすとタオルを巻き、バスルームへと入った。
サァァ…
水音に耳を傾けながら、はバッグの中から洋服を取り出す。
今日の為に持って来ていた一番お気に入りのワンピースの袖に腕を通す。
しっかりと乾かした髪の毛を一つに結い上げる。
凄く幸せで穏やかな朝だけど…
今日の午後にはイザークはプラントへ戻ってしまう。
3ヶ月前に別れた時とは違うけれど…
今度は2人の想いは通い合っているけれど…
それでも離れて暮らすのは寂しくて不安…。
イザークは誰から見ても美形でカッコ良くて…
お金持ちの1人息子だし…
プラントには美人のコーディネイターがたくさん居るし…。
モテない筈、無いんだよね…。
ハァ…と深く溜息をついたは、お気に入りの香水を首筋に少しつけた。
「…支度は済ん…」
バスルームから出て来たイザークは、支度を整えて窓際に佇むの姿を見て言葉を失った。
真っ白いワンピースを身に纏ったの姿に目を奪われる。
普段、ロングスカートを好んで着るだったが、
そのワンピースの丈は膝より少し短めで、裾からは細い素足が視界に入ってくる。
「…へ…変…かな?」
その姿に目を奪われたイザークは言葉も失っていて…
何も言ってくれないイザークに不安になったはイザークに問い掛けた。
「いや…似合っている。綺麗だ。」
「あ…ありがとう…。」
イザークは昨日に貰ったシャツを羽織った。
「あ…着てくれるんだ…。」
「白いワンピースに黒のシャツは映えるな。」
嬉しそうに微笑むとは頬を赤く染めた。
「うん。やっぱ似合ってる。」
「、話があるんだ。」
食後のコーヒーを口に運んでいると、イザークが真剣な表情で話し始めた。
「…なぁに?」
は持っていたカップをゆっくりとテーブルの上に置いた。
「プラントに来てくれないか?」
「プラント…に?」
「今すぐにじゃない。俺が軍に戻って一人前になって…ちゃんとを養えるようになってから…。
そうしたら…俺の妻になって欲しい。」
「イザーク…。」
「勿論、が今の仕事に誇りを持っている事は知っているし、そんなから取り上げる権利も無い。
だから、今すぐに答えが欲しい訳でも無い。
ゆっくり考えて…それから返事をくれたらいい。」
ゆっくりと…そして真剣に今の想いをに伝えるイザーク。
これから先の事をしっかりと見据えて…そしてその気持ちを伝えてくれた事が何より嬉しくて…。
「…分かった…。少し、1人で考えてみる。」
ホテルをチェックアウトした2人は荷物を持って外へ出た。
次に向かう先は空港…。
黙って駐車場に向かうイザークの後について歩き始めた時だった。
「、ここで別れよう。」
「え…?でも…」
空港まで送るつもりだったはイザークの言葉に立ち止まった。
「空港まで見送って貰うと別れが惜しくなるんだ。一緒に連れて帰りたくなる。
だから、ここまででいい。島に戻ってくれ…。」
1分でも1秒でも…
少しでも長く一緒に居たいという気持ちは同じ…。
けれど、一緒に居れば居る程に、別れの時が悲しくなるから…。
「…うん。分かった…。ここでさよならするね…。」
そう答えたの瞳に涙が浮かんでいた…。
「悪い…俺の我が侭で…。」
「ううん。気を付けてね…。」
涙を浮かべながらも必死に笑顔を作るをイザークは抱き締める。
「休みが取れたら会いに来る…。」
「うん。私も会いに行く…。」
「出来るだけ毎日、通信も送るから…。」
「うん。」
「愛してる…。」
「私も…愛してるよ、イザーク。」
「で?MSには乗れるようになったワケ?」
「乗ってみないと分からん。」
プラントに戻ったイザークは、1週間振りに白い軍服に腕を通した。
「5分後にシュミレーション始めるってさ。」
休暇の間の分の書類を手渡すと、ディアッカは部屋を出て行った。
「乗ってみないと…か。」
本当に乗れるのかどうか…
原因はちゃんと取り除かれたのか…。
自分の事だけれど分からない。
それでも、きちんと軍に戻って…隊長としての責務を果たして…
ちゃんとを迎え入れる事の出来る男になりたい。
だから、こんな所で立ち止まる訳にはいかない…。
ザワッ…
シュミレーションが始まって1分…。
様子を伺っていた兵士達からざわめきが起こる。
「何だ…ちゃんと乗れるようになってんじゃん。」
ニヤリと笑ったディアッカは、モニターに背を向けた。
イザークが出した成績は今までの自己ベスト。
それどころか、この軍のベストスコアを軽く更新した。
ガチャ…
自室からリビングへと出て来たは笑顔で一杯だった。
「、イザーク様は何と…?」
「うん。ハイスコア出したって。」
「良かったですわね。」
ラクスに笑顔で頷きながら、イザークに言われた言葉を思い返す。
すぐにでも返事をしたかったけれど…
私の気持ちも尊重してくれるイザークの優しさが嬉しかったから…。
もう少し、ここで頑張ってみようと思うの。
私もまだまだ子供だから…。
ちゃんとイザークの隣に立って歩ける様になりたいから…。
満天の星空を仰ぎながら、は遥か遠くの空を眺める。
その先に居る、愛しい恋人を想いながら…。
在る場所は違っても…心の在り処は同じだから…。
【あとがき】
いやぁ…無事に終了致しました。
何だか不完全燃焼な気もするんですけど…。
正直、7日間にまとめるのは難しいと痛感致しました。
改めて反省でございます。
書き足りない部分も多いので、反響が良ければ番外編も書こうと思っています。
ともかく、ここまで読んでくださってありがとうございました。
もっともっと勉強して、次の作品はもっと深みのある作品に出来たらなぁ…と思います。
2005.4.7 梨惟菜